みやぴら

みやぴら

大学院で同期現象の研究してる人。

高校生からの大学に関する質問の返答

 先日、母校である大宮高校の1年生に、大学・大学院に関する質問に答えるという機イベントがありました。そこで、幾つか生徒からの質問を頂きましたが、時間の関係上答えられなかったものがあったので、幾つかここで返答しておきます。

 

 

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  • 大学に入ろうと思ったきっかけは何か(東北大を選んだ理由)

 「大学に入ろう」というよりは、「大学には通常入るものだ」という考えだった。中学1年生の時は学業成績が良くなく、親に向かって「おれは高校には行きたくない(中卒でいい)」と言った記憶があるので、おそらく大学を意識したのは中学2年生か3年生だと思う。この頃、栄光ゼミナールに通って成績が伸びたことで、大学に行こうと思ったと考えられる(成績がいい人は大学に行くものだという価値観が私の生活していた環境にはあった)。

 東北大学を選んだ理由は、 (偏差値的な入学可能性は言わずもがな)ひとり暮らししたいという(不純?な)もの。詳細は伏せるとして、実家の環境が嫌で抜け出したいという思いはとても強かった。また、ぼくの家庭は家族旅行や帰省(墓参りなど)が無かったので、幼い頃から高校卒業に至るまで、活動区域は殆ど地元+川越市さいたま市という狭いものであった。そのため、一度は全く異なる地域での生活を経験したいという思いが強かったのだと思う(余談 : この思いは今でも強く、趣味の旅行中は当地での生活に想いを馳せている)。また、当時は仙台(というか東北地方)の知識が殆どなく、未知への憧れも選択に影響したと思われる。

 

 

  • なぜ大学院に進学したか

 学術研究というものを体験したかったから。弊学物理学科では、学部の間は勉学がメインで、研究活動はB4(学部4年生)で少しやるくらい。それでは研究のけの字も理解できないので、大学院に進学した。

 

 

  • 大学卒業後なにをしたいか, 学んだことを将来どのように活かしたいか

 将来のキャリアについては殆ど何も考えてない。

 

 

  • 専攻分野に興味を持ったきっかけは何か

 専攻分野を決める段階(B3の冬頃)で、ぼくは伝統的な物理学に興味を失っていた。物理学の研究室は大きく分けて「素粒子原子核分野」、「物性物理学分野」に分けられるのだが、前者は数式に飲み込まれて現象がわからない(これはぼくの能力不足による)、後者は新機能物質の発見や物性の予言、解析などを行っている印象で、端的に言ってつまらなそうだった。そもそもどちらの分野も浮世離れしている印象があり、身近な現象、人間スケールの現象に興味があるぼくにとってはどちらにも好奇心は向かなかった(もちろん、ぼくの経験・努力不足による偏見も大いに混ざっている。上記の分野をDisってるわけではないので...)。

  その点で、生物物理学は割とぼくの興味に合っていたので選択した。細胞分裂は(超伝導素粒子よりは)身近で人間スケールのものだと思うので (実のところ、この後に細胞分裂への興味は薄れ、転学することになるが)。

 

 

  • 大学の講義と高校の授業の違い

 弊学物理学科の基礎科目講義は、高校までのそれとさほど変わらない。というのも、物理学の歴史は長いため今までの蓄積が膨大であり、それらの座学が3年次(4年次以降も)続くからである。基礎科目は古典力学、古典電磁気学解析力学、熱力学、量子力学統計力学+各種数学(線形代数解析学複素解析フーリエ解析...)。

 発展科目(素粒子物理学、物性物理学...)は、 微かに研究の雰囲気を感じることもあるが、基本的には変わらない。

 一方実験講義は、高校のそれとまるで違う。(量もそうだが)いわゆる"考えさせられる"実験課題が多いように思う。とはいえ、真面目に履修しなかったぼくには、どれほどこの感覚が正しいか判断できない。

 

 

  • 進学してよかったこと、大学で学べたこと

 自分の気持ちに正直になれる時間を得ることができ、結果として多様な世界を知ることができたこと。大学1,2年の頃は、勉学へのモチベーションは殆どなく、サークル活動や旅行に明け暮れていたが、今は逆に勉学•研究中心の生活を送っている。テレビゲームに熱中した時期もあったし、実用書を読みまくった時期もある。また、本当に何もしなかった時期もある。感情のままに動き、色んな世界を知ることができた。大学での経験によって自分の中の霧が晴れた感覚があり、これは非常に有益なものだった。

 もちろん、"色んな世界"は勉学からも得られた。特に自分の価値観に影響を与えているように思われるのは、「統計力学」•「複雑系科学(カオスなど)」。

 

 

  • なぜ物理学を専攻しているのに, 生物現象(細胞分裂)を扱っているのか

 これまでの科学が蛸壺化してきているという懸念から、学際領域(異なる蛸壺の融合)の研究が盛んになってきている。生物物理学もその一種で、シュレディンガー著「生命とは何か」に端を発する。東京大学には"新領域"創成科学研究科があるが、これもその流れの一つだろう。

 

 

  • 高校生のうちに経験しておけば良かったと思うことはあるか

 もっと自分の時間を持てるようにすればよかったなぁと思ったりもする(そこまで後悔しているわけではない)。高校時代は、授業・課題・復習・部活の黄金サイクルで、その日暮らしだったので、あまり長期的な視野を持てず、自分の視界も狭かった。

 

 

  • 大学受験で大変だったこと

 興味ないことをしなければならないことと、毎日代わり映えのしない生活が苦痛だった。ぼくの場合、「古典」・「漢文」の勉強は死ぬほど嫌だった(てか死んだ)。嫌なことでも、目標立ててコツコツ努力できる人が、受験には向いているのかもしれない。また、ぼくは(今でもそうだが)休憩の取り方が下手くそなので、それも災いした。適度なリフレッシュ方法を見つけるといいと思う。

 

 

  • 研究する際に心がけておくこと

 まだ研究界では赤ちゃんなのでたいそうなことは言えないが、仮説に飲み込まれないことは大切だと思う。研究は「現象(実験)→仮説→実験→仮説'(修正した仮説)→実験→...」というプロセスが基本になっている。ここで、自分の立てた仮説を盲信してしまい、それに矛盾するような現実(実験データ)を無視してしまう、または歪んだ解釈をしてしまうことがある。「自分は間違っていない!間違っているのは現実の方だ!」という態度は理学研究として相応しくないので、そうならないように常に心がけておくべきだと思う。